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中遠昔ばなし

第53話   (りゅうそういんさんもんのりゅう)
竜巣院山門の竜(袋井市)

竜巣院山門の竜(袋井市)

 袋井市笠原地区五十岡には、「長嶽竜巣院門」というお寺があります。このお寺にある山門の竜の彫刻がすばらしく、こんなお話が伝えられています。
 五十岡の「竜巣院」は延徳元年(1489)に建てられ、建物も大きく由緒あるお寺です。お寺を建てるときは、お寺の前に大きな池があってそこには竜神が住んでいたと言われ、それによって「竜巣院」と名付けられた程です。
 又山門には「名工左甚五郎」の作と言われている、見事な竜の彫刻が掲げられています。あまりに見事に作られているので見物人も多く、お寺へ参拝する人もたくさんありました。
 その頃です。この竜が毎夜のように山門から抜け出して、近所の田んぼや畑を荒らしまわったり、村の人をおどろかしていました。
 初めのうちは、竜の仕業だとわからなく、又山門の彫刻の竜が抜け出すなどとは、信じられなかったのです。けれども度重なるうちに、夜中に見ると彫刻の竜は抜けがらになってているのです。これには村の人達もほとほと困ってしまい「和尚さんなんとかして下さい」とお寺に頼みました。当時の住職は「大素」という勇気のあるりっぱなお和尚さんでした。お寺としても檀家の人達に迷惑を掛けている竜には困っていましたので、「そうかよし、鎮めてやる」と早速刀を持って行き、竜の彫刻に向かってお経を唱えました。お和尚さんはお経を読み終わると同時に「エイッ!」とばかり竜のお腹に刀をさしました。
 それから後は、もう竜は彫刻から出なくなったそうです。それほどにこの山門の竜は見事に出来ています。そして今でもはっきりと刀痕が見えます。
 竜巣院は今から五百年ほど前に建てられ、寛永七年(1630)の山火事や安政の大地震などで、これまでに三回の大がかりな修理が行われましたが、山門の竜は昔のままの姿で残っています。
 現在の山門は、三百年前「安間五郎作」という人の寄附で大工の棟梁、浜松の「長四朗」によって建てられたと伝えられています。
 竜巣院の住職に案内していただき、山門の竜を見ました。その彫り物は竜ととらが向かい合っている姿で「左甚五郎」の作といわれています。
 そしてこのお話通り、竜のお腹には、はっきりと刀痕が残っていました。
 村人をおどろかした竜は、今もなお三百年の風雪に耐えながら静かにお寺を見守っています。

〈話・・・・・・竜巣院〉

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