袋井市の南のはずれに、奥三沢という所があります。そこに、千年以上も昔から、『幸せを呼ぶ金の鶏が鳴く』という言い伝えがあります。
その昔、奥三沢のお寺の近くに、金の鶏の置物を家宝に持つ、「関口長者」という長者さまが住んでいました。村人は、長者さまの田や畑の仕事をして毎日暮らしておりました。
ある年、村人たちが田植えをしていると、あともう少しというところで、日が西の山にしずみ掛けてしまいました。村人たちが、「困りました」と長者さまの家に行くと、長者さまは、庭先に出て、空高く扇をかざしました。すると見る見るうちに太陽は戻り、無事田植えを済ませることができました。
ところが夜、にわかに雲行きが変わり、村は、とてつもない大雨に見舞われました。大洪水とともに山つなみが起こり、田畑や家々までもすべて流されてしまいました。山の中腹には、岩肌を見せた崖だけが残りました。
翌年の元旦の明け方、何一つないはずの崖に、どこからともなく鶏の鳴き声が聞こえてきました。以来、元旦の明け方になると聞こえる鶏の鳴き声を村人たちは、「長者さまの家にあった『金の鶏』に違いない」と言うようになり、「『金の鶏』の声を聞くと、その一年間幸運に恵まれる」と伝えられています。
袋井市山崎(笠原・三沢地区)では、今でも「長者平」や「寺が谷」という地名が残っています。崖は、大洪水が『天』の付く年号の出来事だったことから『テンガ崖』と呼ばれ、今でもその面影を残しています。このあたりは現在、一面茶畑になっていますが、昔、田んぼがあったことが地層から明らかになっています。
〈袋井の昔話より〉 |