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第85話 | (せがやのそできりやくし) 瀬ヶ谷の袖切薬師(袋井市) |
袋井市宇刈三沢の、宇刈川南にある本村に瀬ケ谷という所があり、そこに小さなお堂が建っています。 これが「福光山薬師堂(ふくこうざんやくしどう)」と言います。昔は本村へ行くには川が曲っていて、橋も今より東の方で木の橋でした。 この橋を「袖切橋(そできりばし)」と言い、その付近で転ぶと袖がなくなるという言い伝えがありました。 昔、この本村に美しい娘がいました。ある年のこと、娘は隣村のお祭に友だちといっしょに遊びに行くことになり、その年に作った一番美しい着物を着て出掛けました。 お宮参りをしての帰り道、村の入口にあるこの橋まで来ると、どうしたはずみか前へ転んでしまいました。別にけがはなかったのですが、大事な着物の片袖がなくなっているのです。びっくりし、泣き泣き家に帰って家の人にこの事を話しました。 それからずっと月日が過ぎたある日の事です。大雨で村じゅう大水となり、宇刈川も所々で堤が切れてしまいました。三沢でも本村へ行く橋の上で堤が切れてふちができ、村じゅう大さわぎとなりました。 ところが、みの笠をつけた村の人達が見守るうず巻きの中から、一体の仏像が浮びあがりました。びっくりした村人達は、力を合わせてみんなでその仏像を拾い上げてみると、なんと片袖の無いお薬師様ではありませんか。 さては、以前娘の片袖がとられたのはこのお薬師様が世に出たくてとったのかと、みんなで仏像をきれいに洗い、仏師を頼み、片袖をつけ、瀬ケ谷にお堂を建ててお祀りしました。 以前、着物の袖をとられた娘は、今はひときわ美しくなり、一心にお薬師様に信心しました。 ある夜のことです。娘の夢枕にお薬師様が現れて、”先年なんじの片袖をとって世上に出て世人の信仰を得て本望をとげた。その片袖を返すから明朝参拝せよ”と告げました。 娘は夜明けを待ってお堂へ行くと、不思議なことに片袖はお堂の前の松の木にかかっていました。娘は袖をもらって、急いで家に帰りその事を父母に話しました。 この話はそれからそれへと伝わり、娘には縁談がふるようにあって良縁を得て嫁ぎ、長生きをし、幸せに暮らしたという事です。 実家はもとより嫁ぎ先の家も今なお栄え、お薬師様は「袖切薬師」、仏像の浮んだ淵は「堂岸(どうがん)ぶち」と言われています。 (「袋井に伝わる昔話」より) |
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