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第87話 | (かっぷのあかうし) 葛布の赤牛(森町) |
森町から少し山あいに入ったところに、葛布(かっぷ)という小さな村があります。この村のおくまった川の上流に美しい滝(たき)があります。深くすんだ滝つぼには、昔から「滝の主」が住んでいると伝えられていました。村人たちは、この滝を「葛布の滝」と呼び、「不動尊(ふどうそん)」をおまつりし、日でりが続くと、村人はより集まって雨ごいをしたと伝えられています。 今から三百年ぐらい前のこと、その年の夏は、それはたいへんな日でりが続いて、村じゅうの田畑は 「のう、重平さ、えらい日でりだ。これじゃあ、せっかく植えたイネもかれてしまうなあ。」「うん、これじゃあ、一つぶの米もとれやせんぞ。」 村人たちは、顔をくもらせ、たがいにため息をつくばかりでした。 そのころ、村に黒兵衛(くろべえ)という気だてのよい男が住んでいました。 黒兵衛は、村人たちを集め、雨ごいをしようと相談しました。そして話がまとまると、村人たちは、すぐ滝に出かけました。みんなであげものをそなえ、お不動様に一心(いっしん)にお祈(いの)りをしました。 ところがどうしたことか。せっかくの願いもききめがなく、ほんのわずかな雨がふっただけでした。日でりはなおも続き、村人の顔にはあせりが見えはじめました。 黒兵衛は、村人たちの困ったようすを見てじっとしてはいられませんでした。 「ほんとに困ったことだ、もう一度、雨ごいをしてみるか。」 なにごとか心にひめた黒兵衛は 「最後の願いだ。少しあらっぽいかも知らんが、まあ、しょうがない。」 とつぶやきながら、うらの離(はな)れに入っていきました。そのゆかにしいてある古くよごれたむしろに、あたりにちらばっている物を巻きこんで、一人、滝に向かって急ぎました。 滝についた黒兵衛は、そのむしろを滝つぼに投げこむと、腰(こし)まで水につかりながら、これを足でふみつけ、何かをとなえました。 「これでよし。」 と、自分に言い聞かせるようにうなずくと、家に向かって帰りを急ぎました。黒兵衛が家につくころには、黒雲がおおいはじめ、やがて大つぶの雨がふりだしました。雨はしだいにはげしくなり、にごった川の水の勢いはますばかりでした。村人たちは、不安とおそろしさにおののきました。 「これは、ちょっとやりすぎたかな。」 と、黒兵衛はつぶやきました。ちょうどそのときです。黒兵衛は、すさまじい音を聞きました。不思議に思い川の上流を見ると、あれくるったような流れの中を大きな赤牛が大蛇(だいじゃ)を背に乗せてやってくるではありませんか。滝には、主が住んでいるといいますが、あれがそうかも知れないと黒兵衛は思いました。黒兵衛が滝をよごしたのをおこって出てきたのでしょうか。赤牛は黒兵衛の近くまでくると、ほえるように「黒兵衛、さらばじゃ。」と言うと、水を巻きあげながら大雨のなかに消えていきました。黒兵衛はガーンと何ものかに頭をうちのめされ、たおれてしまいました。うなされたようにうわ言を続けた黒兵衛は、息をひきとってしまいました。 大雨の夜、黒兵衛の家では村人が集まってお通夜(つや)が行われましたが、みんながねむったすきに、黒兵衛の死体はどこかへ消えてしまいました。村人たちは滝の主のたたりだとおそれました。 あくる朝になると、大雨はやんでいました。村人たちはおそるおそるあたりをさがしまわると、やっとのことで滝の近くのカヤの木にかかっている黒兵衛の死体を見つけたのでした。村人たちは、命がけで雨ごいをした黒兵衛をねんごろに弔(とむら)いました。 その日から水はおさまり、村はふたたび静かになったといわれています。 (「森町ふるさとの民話」より) |
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